学習指導要領の変遷

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全国学校体育研究大会 学習指導要領の変遷

通史

学習指導要領は、小学校、中学校、高等学校の教育課程の編成、各教科、道徳、特別活動の目標や内容、授業時数の取り扱い、各教科等の指導計画作成の配慮事項などに関する国の基準で、学校教育施行規則を根拠に文部省(現文部科学省)が定めている。1947(昭和22)年に「学習指導要領 一般編(試案)」(体育科では「学校体育指導要綱」)が初めて示され1958(昭和33)年以降は文部大臣(現文部科学大臣)の公示制度となり、国家的な基準性と拘束性を持つこととなった。

したがって、学校体育の研究、特に学校現場での実践的研究では、学習指導要領との関係を無視することはできない。ここに、体育、保健体育に関わる学習指導要領の変遷をまとめた。

これまでに示された体育、保健体育に関する学習指導要領は1947(昭和22)年の学校体育指導要綱から現行(1998(平成10)年告示)の学習指導要領まで、小学校、中学校、高等学校分を合せると、以下の20を数える。

(これらの学習指導要領の目標と内容および総則第3部分を、50周年記念誌 IV 全国学校体育研究大会関連資料「体育関係学習指導要綱・学習指導要領一覧」として、第II章末に示した)

『学習指導要領は、おりおりの社会情勢、教育思潮に沿いながらおおよそ10年のサイクルで改訂されてきた。小学校、中学校、高等学校の学習指導要領の改訂をこのサイクルで括ると、6期になる。 第1期「1947(昭和22)年から1957(昭和32)年以前」(1947小・中・高、1949小、1951中・高、1953小、1956高)、第2期「1958(昭和33)年から1967(昭和42)年以前まで」(1958小、1958中、1960高)第3期「1968(昭和43)年から1976(昭和51)年まで」(1968小、1969中、1970高)、第4期「1977(昭和52)年から1988(昭和63)年以前まで」(1977小、1977中、1978高)、第5期「1989(平成元)年から1997(平成9)年まで」(1989小、1989中、1989高)、第6期「1998(平成10)年以降」(1998小、1998中、1999高)である。』

学習指導要領に見られる3つの時代的枠組み

現在学習指導要領に示された目標は、3つの時代的枠組みで区分されるのが一般的である。
すなわち、先の6期は、次の3つに括られよう。

①「新体育」「生活体育」の時期-第1期(1947年より1957年以前)
②基礎的運動能力や体力重視の時期-第2期および第3期(1958年以降より1976年以前)
③楽しい体育の時期-第4期、第5期および第6期(1977年以降より現在)

試みに、学習指導要領の小学校分で述べられている目標と内容を並べてみる。

1947(昭和22)年 [体育の日的]
体育は運動と衛生の実践を通して人間性の発展を企図する教育である。それは健全で有能な身体を育成し、人生における身体活動の価値を認識させ、社会生活における各自の責任を自覚させることを目的とする。
[体育の目標]
(一)身体の健全な発達
(二)精神の健全な発達
(三)社会的性格の育成
[運動]
体操(徒手、器械)、遊戯(遊戯、球技、水泳、ダンス)
1949(昭和24)年 [体育科の目標]
体育科の目標は、教育の一般目標を目ざしながらなお体育科の性格に応じてさらに具体化される。
目標の決定には、社会生活の体育的要求を考えるとともに児童の要求を考えることが必要である。われわれの目ざしている民主国家を打ち立てるためにも、また現実の社会をながめても、そこには体育科の立場から見て改善しなければならない多くのものがある。また同時に、各発達段階にある児童の側にも、正しい発達のためにそれぞれ体育的要求が存する。したがって体育科の目標は社会と児童のもつこれらの要求のいずれをも満たすものでなければならないのであって、単に児童の立場からのみ、あるいは将来の社会生活の要求のみから目標を決定してはならないのである。
体育化の一般目標というべきものは次のように考えることが適当であろう。
一、健康で有能な身体を育成する。
二、よい性格を育成し、教養を高める。
[教材]
模倣・物語り遊び、リズム遊び・リズム運動、ボール遊び・ボール運動、鬼遊び、リレー・陸上運動、器械遊び・器械運動、徒手体操、水遊び・水泳、雪遊び・スキー遊び・スキー
1953(昭和28)年 [体育科の一般目標]
学習者の能力を高めるための体育科のねらいにはいろいろの方面がある。それを人間のはたらきからみるとき、身体的・知的・情緒的・社会的側面に分けてみることもできよう。
しかし現実の問題としては、知的、情緒的、社会的側面は、その関連が密接であるので、はっきりと区別することが困難である。
このような事情のためにこの指導要領では、体育科の目標を、次の3つに分けることにしたのである。すなわち、
(1)身体の正常な発達を助け、活動力を高める
(2)身体活動を通して民主的生活態度を育てる。
(3)各種の身体活動をレクリエーションとして正しく活用するここができるようにする。
[学習内容]
(低学年)力試しの運動をする、固定施設を使って遊ぶ、ボール運動をする、リズムや身振りの遊びをする、鬼遊びをする、水遊びや雪遊び
(中学年)力試しの運動をする、リレーをする、ボール運動をする、リズムや身振りの遊びをする、鬼遊びをする、水泳・スキー・スケート
(高学年)力試しの運動をする、徒手体操をする、リレーをする、ボール運動をする、リズム運動をする、鬼遊びをする、水泳・スキー・スケート
1958(昭和33)年 [目標]
(1)各種の運動を適切に行わせることによって、基礎的な運動能力を養い、心身の健全な発達を促し、活動力を高める。
(2)各種の運動に親しませ、運動のしかたや技能を身につけ、生活を豊かにする態度を育てる。
(3)運動やゲームを通して、公正な態度を育て、進んで約束やきまりを守り、互に協力して自己の責任を果たすなどの社会生活に必要な態度を養う。
(4)健康・安全に留意して運動を行う態度や能力を養い、さらに保健の初歩的な知識を理解させ、健康な生活を営む態度や能力を育てる。
[内容]
徒手体操、器械体操、陸上運動、ボール運動、リズム運動、その他の運動
1968(昭和43)年 [目標]
適切な運動の経験や心身の健康についての理解を通して、健康の増進と体力の向上を図るとともに、健康で安全な生活を営む態度を育てる。
このため、
1 運動を適切に行わせることによって、強健な身体を育成し、体力の向上を図る。
2 運動のしかたや技能を習得させ、運動に親しむ習慣を育て、生活を健全にし明るくする態度を養う。
3 運動やゲームを通じて、情緒を安定させ、公正な態度を育成し、進んできまりを守り、互いに協力して自己の責任を果たすなどの社会生活に必要な能力と態度を養う。
4 健康・安全に留意して運動を行う能力と態度を養い、さらに、健康の保持増進についての初歩的知識を習得させ、健康で安全な生活を宮むために必要な能力と態度を養う。
[内容]
体操、器械運動、陸上運動、水泳、ボール運動、ダンス
1977(昭和52)年 [目標]
適切な運動の経験を通して運動に親しませるとともに、身近な生活における健康・安全について理解させ、健康の増進及び体力の向上を図り、楽しく明るい生活を営む態度を育てる。
[内容]
(低学年)基本の運動、ゲーム
(中学年)基本の連動、ゲーム、器械運動(4年)、表現運動
(高学年)体操、器械運動、陸上運動、水泳、ボール運動、表現運動
1989(平成元)年 [目標]
適切な運動の経験と身近な生活における健康・安全についての理解を通して、運動に親しませるとともに健康の増進と体力の向上を図り、楽しく明るい生活を営む態度を育てる。
[内容]
(低学年)基本の運動、ゲーム
(中学年)基本の運動、ゲーム、器械運動(4年)、水泳(4年)、表現運動
(高学年)体操、器械運動、陸上運動、水泳、ボール運動、表現運動
1998(平成10)年 [目標]
心と体を一体としてとらえ、適切な運動の経験と健康・安全についての理解を通して、運動に親しむ資質や能力を育てるとともに、健康の保持増進と体力の向上を図り、楽しく明るい生活を営む態度を育てる。
[内容]
(低学年)基本の運動、ゲーム
(中学年)基本の運動、ゲーム、器械運動(原則4年)、水泳(4年)、表現運動
(高学年)体つくり運動、器械運動、陸上運動、水泳、ボール運動、表現運動

大戦後の日本は、戦前の反省を踏まえ、民主的な国家の形成者の育成をめざした。その中で、体育は民主体育の確立を図るため、経験主義教育の理論によりながら生活体育を生み出し、問題解決学習を取り入れた子どもを主人公とする体育を構想した。この考えは、1953(昭和28)年学習指導要領の「体育科の位置」の中に表されている「体育科は、児童生徒の身体活動を、個人的な発達や社会的に望ましい生活に役だたせるための学習経験の 組織であり、この独自のはたらきを通して、教育全般に貢献しようとする領域である」に見られるように、戦前の「身体の教育」から「身体活動による教育」への転換として結実している。具体的目標(身体的目標、民主的態度の目標、レクリエーションの目標)は、その貢献の証しである。

しかし、問題解決学習は「はいまわる経験主義」とも評され、子どもの放任に流れがちとなり、運動技能の低下を招くとも批判された。これらの批判が折からの系統主義の主張とも重なり、1958(昭和33)年学習指導要領の「各種の運動を適切に行わせることによって、基礎的な運動能力を養い、心身の健全な発達を促し、活動力を高める」や1968(昭和43)年「運動を適切に行わせることによって、強健な身体を育成し、体力の向上を図る」に見られる基礎的運動能力の育成や体力つくりが目標となった。これらの目標を達成するために、(総則に表記されているように)「発展的・系統的な指導」を「能率的」「効果的」に行うことが求められた。

1970年代以降の社会の変化は人々の生活に一大転換をもたらした。これを受けた1977(昭和52)年総則の「児童の人間として調和のとれた育成」、1989(平成元)年総則の「自ら学ぶ意欲と社会の変化に主体的に対応できる能力の育成」「基礎的・基本的な内容の指導を徹底」「個性を生かす教育の充実」として表されている思潮は、「楽しく明るい生活を営む態度を育てる」(1977(昭和52)年、1989(平成元)年、1998(平成10)年)を最終的・究極的目標とし、「運動に親しむ」「健康の増進」「体力の向上」を諸目標とする体育に発展した。このことは、「身体活動による教育」から運動自体の価値を認める「運動の教育」の容認でもある

この事情を、友添秀則・(財)日本学校体育研究連合会現副理事長は、体育の目標に視点を置きながら、次のようにまとめている。

(新体育の目標)戦後の体育は戦前の軍国主義的な体育の払拭が大きな課題となった。具体的にはアメリカ体育の中心思潮であった経験主義教育を基盤とした「新体育」の全面的導入から始まった。1947年要綱はこの新体育を具体化したもので、体育科は民主的な人間形成という教育の一般目標を達成する教科であると規定された。このような戦前から戦後の体育の変化は、戦前の「身体教育」から「運動による教育」への体育概念の転換ととらえることができる。

体育概念の転換は、教材を「体操」から「スポーツ」へ、学習方法を「一斉指導」から学習者中心の「問題解決学習」へと変え、体育科の役割を身体の発達だけでなく、人間の多面的な発達に貢献する教育の方法領域として位置づけるようになった。ここから、多くの目標と多くのプログラムを提供しようとする体育が始まった。

この時期の要綱・要領は、教育の一般目標である民主的人間形成を可能にするために、体育科でも民主的な生活態度を育成する社会性の発達目標(社会的目標)が中心を占めた。また、アメリカの経験主義教育の影響から、子どもの日常の運動生活と体育科の関連を強調し、レクリエーションを日常生活に取り入れることをめざす生活体育が重視された。他方、生活体育とも呼ばれたこの時期の体育科では、健全な身体的発達をめざす身体的目標は、戦前の反省から消極的に受けとめられがちであった。
(体力づくりを重視した目標)先の時期の生活中心の経験主義教育のもとでは、基礎学力の低下が問題とされるようになった。ここから、科学の体系を重視する系統主義教育への転換が行われたが、体育科では、1958年要領で教科の系統を運動技術ととらえ、基礎的運動能力や運動技能の向上をめざす技能的目標が強調されるようになった。そして、先の時期の主要目標であった「生活目標」は身体的目標や社会的目標に吸収され姿を消した。

先の時期以降、日本は国際スポーツへの復帰を果たしたが、そこでの日本人選手の成績不振は、新たな問題を投げかけるようになる。競技での成績不振は、来たる東京オリンピックの選手強化体制づくりの必要性という国民世論を喚起し、学校体育における基礎体力の育成やスポーツの基礎体力の育成やスポーツの基礎技術の向上を一層要請するようになった。一方、この時期の飛躍的な経済成長は、日本人の生活様式を大きく変え、健康に対する脅威を生じさせるようになった。この時期に顕著になる受験闘争の激化も、生活環境の悪化と共に、青少年の体力問題への関心を高めることになった。

このような体力づくりへの社会的な要請を受けながら、1958年要領の基礎的運動能力は基礎体力と理解され、68年要領では、総則の第三で、学校教育活動全体を通じて体力の向上を図ることがうたわれる。と同時に「体力づくり」をめざす体力的目標を吸収し、技能的目標、社会的目標に先立って重点目標として強調された。

(楽しさを重視した目標)1970年代以降始まった工業化社会から脱工業化社会への転換は、人々の生活を大きく変えると同時に、スポーツが社会や文化の重要な一領域として認知される契機を生み出した。具体的には、ヨーロッパを中心に始まった「スポーツ・フォー・オール」運動は、スポーツや運動を健康のためだけでなく、生涯の楽しみとして享受すべきとする生涯スポーツの理念に結実していく。

このようなスポーツや運動への人々の需要の変化は、運動を手段として用いる「運動による教育」から運動やスポーツそれ自体の価値を承認する「運動・スポーツの教育」への体育概念の転換をもたらし、この転換は日本の要領にも大きく反映されていった。
1977年要領は、技能的目標、体力的目標、社会的目標を従来同様に重視しながらも、運動への愛好的態度の育成を重点目標に位置づけた。この傾向は、1988年、1998年要領にも踏襲されるが、1988年要領からは技能的目標、体力的目標、社会的目標は、生涯スポーツの能力と態度を育成するという上位目標をより具体化するために、「運動の学び方」が重視されるとともに、「心と体を一体としてとらえる」ことが上位目標に挙げられ、体育目標と保健の目標の一層の関連を強調している。(友添秀則「体育科教育学入門」大修館書店、2002年、41~43頁)

学校体育と総則体育の関係

このまとめの中にも述べられているいわゆる総則第3体育(1968年学習指導要領から掲げられている)は、学校体育に大きな影響を及ぼしている。次に小学校分の総則部分を示した。

1968(昭和43)年 総則
第3 体育
健康で安全な生活を営むのに必要な習慣や態度を養い、心身の調和的発達を図るため、体育に関する指導については、学校の教育活動全体を通じて適切に行うものとする。特に、体力の向上については、体育科の時間はもちろん、特別活動においても、じゅうぶん指導するよう配慮しなければならない。
1977(昭和52)年 第1章 総則
3 学校における体育に関する指導は、学校の教育活動全体を通じて適切に行うものとする。特に体力の向上及び健康・安全の保持増進については、体育科の時間はもちろん、特別活動などにおいても十分指導するように努めるとともに、それらの指導を通して、日常生活における適切な体育的活動の実践が促されるよう配慮しなければならない。
1989(平成元)年 第1章 総則
3 学校における体育に関する指導は、学校の教育活動全体を通じて適切に行うものとする。特に体力の向上及び健康・安全の保持増進については、体育科の時間はもちろん、特別活動などにおいても十分指導するように努めることとし、それらの指導を通して、日常生活における適切な体育的活動の実践が促されるとともに、生涯を通じて健康で安全な生活を送るための基礎が培われるよう配慮しなければならない。
1999(平成10)年 第1章 総則
3 学校における体育に関する指導は、学校の教育活動全体を通じて適切に行うものとする。特に体力の向上及び心身の健康の保持増進に関する指導については、体育科の時間はもとより、特別活動などにおいてもそれぞれの特質に応じて適切に行うよう努めることとする。また、それらの指導を通して、家庭や地域社会との連携を図りながら、日常生活において適切な体育・健康に関する活動の実践を促し、生涯を通じて健康・安全で活力ある生活を送るための基礎が培われるよう配慮しなければならない。

「体力の向上」「健康安全の保持増進」「日常生活での体育的活動」「生涯スポーツの基礎」を体育科の時間はもちろん特別活動でも考慮するよう強く要請している。先に記した大会主題あるいは部会主題に強く影響を及ぼしていることは、明白である。
その変遷や学校種間の関係も興味深い(50周年記念誌の第II章Ⅳ 全国学校体育研究大会関連資料「体育関係学習指導要綱・学習指導要領一覧」には中学校、高等学校の総則部分も示した)。

[森 知高]